冬濤遠望2
超短編断続ブログ小説「寝苦しい夜」続き・・
意を決してTの裸身の横に体を滑り込ませたおれ。
でもここからは未知の領域だ。
異界へのドアの向こうに広がるまだ見ぬ景色への断ち難い興味と、こんなにも身近にある大切なものを失うかもしれないリスクの大きさがおれを逡巡させる。
何倍にも長く感じた数分の懊悩の末に、夜の闇に背中を押されておれはTの背中をそっと抱いた。
そしそのまま決意の鈍らぬうちに、両手をTの中心部に向けて伸ばした。
不意にTが激しく反転し、おれの肩を激しくつかんで揺さぶった。
Tに肩を揺さぶられておれが目覚めたのはホテルの風呂の中だった。
疲れのあまり風呂で寝入ってしまったらしい。
「風邪ひくで。布団で寝ろよ。・・何を握りしめてるんや」
浴衣姿のTはあきれ顔で言うとさっさと風呂を出て行った。
少し寒さを感じるくらい湯が冷めている。
と、湯を温めなおす自動温度調節機能が作動して、湯の注ぎ口に近い爪先が熱くなってきた。
何度かこれが作動したんだろう。
「ちゃんちゃん」おれは独りごちたのだった。
おわり。

意を決してTの裸身の横に体を滑り込ませたおれ。
でもここからは未知の領域だ。
異界へのドアの向こうに広がるまだ見ぬ景色への断ち難い興味と、こんなにも身近にある大切なものを失うかもしれないリスクの大きさがおれを逡巡させる。
何倍にも長く感じた数分の懊悩の末に、夜の闇に背中を押されておれはTの背中をそっと抱いた。
そしそのまま決意の鈍らぬうちに、両手をTの中心部に向けて伸ばした。
不意にTが激しく反転し、おれの肩を激しくつかんで揺さぶった。
Tに肩を揺さぶられておれが目覚めたのはホテルの風呂の中だった。
疲れのあまり風呂で寝入ってしまったらしい。
「風邪ひくで。布団で寝ろよ。・・何を握りしめてるんや」
浴衣姿のTはあきれ顔で言うとさっさと風呂を出て行った。
少し寒さを感じるくらい湯が冷めている。
と、湯を温めなおす自動温度調節機能が作動して、湯の注ぎ口に近い爪先が熱くなってきた。
何度かこれが作動したんだろう。
「ちゃんちゃん」おれは独りごちたのだった。
おわり。
